非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~

予感の正体

一毬はパソコンを持つ手に力を入れると、震える手で研究室の扉を押し開ける。
いつものように静かな室内を想像していたが、今日は研究員たちがバタバタと騒々しく走り回っていた。

どうも発表会で使用するデータを、検査機器から抽出する作業に追われているようで、誰も一毬が入ってきたことに気がついていないようだ。

一毬はそろそろと研究員たちの脇を通り、倉田のデスクがある奥の部屋に向かう。
倉田は厳しい顔つきでディスプレイを食い入るように見ていたが、一毬の姿と手元のノートパソコンに目をやると、途端に表情を明るくして駆け寄ってきた。

「良かったぁ。湊斗帰ってきてたんだ」

ほっと胸をなでおろすようにパソコンを受け取る倉田を、一毬はこわばった顔で見上げる。
倉田は立ったままパソコンの電源ボタンを押すと、画面をじっと覗き込んでいた。

「湊斗さんは、まだ戻ってなくて……」

震えるように出した一毬の声に、倉田は顔を上げると小さく首を傾げる。
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