非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「でも俺は、元々低価格帯での販売を視野に、製品化を模索していた。小さな診療所にも置ける、安価で小型の検査機器の開発をしたかったんだ」

それがプレス発表会で言っていた“湊斗の目指す、未来の会社像”だったのだろう。
この意見の不一致は、湊斗と菱山の間で度々言い争いが起きたという。

そんな状態にしびれを切らした菱山は、次の手として、会長に自身の娘と湊斗との縁談を持ち掛けた。

TODOの身内になることで、より湊斗に文句を言わせない環境を作り出そうとしたのかも知れない。
会長は菱山の申し出を二つ返事で快諾し、紫は婚約者顔で湊斗の前に度々姿を見せるようになった。

「紫さんが、結婚のことをどう思っていたのか、本心はわからない。ただ、よくここには来ていた……」

一毬は、紫の名を呼ぶ湊斗の口元を見つめて、再び心がジクジクと痛みだす。
前に吉田が話していた“お嬢さんが会いに来ていた”というのは、このことだったのか。

「紫さん自身は悪くない。でも俺は、そんな菱山社長のやり方が許せなかった。結婚の話も、開発の話も、到底受け入れられるものじゃないと……」
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