非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
湊斗は苦しそうに眉を寄せると、静かに息を吐く。

「あの日俺は、会社を訪ねてきた紫さんに先に話をした。これから菱山社長に会って、菱山の支援と、結婚の話を断るつもりだと。先に紫さんに伝えるのが、礼儀だと思ったんだ」
「紫さんは、何と……?」
「泣きながら、飛び出して行った……」

一毬は、はっと口元を押さえる。

「まさか……そこで事故に?!」

湊斗は瞳をぐっと閉じると、頭を抱えるように下を向いた。
湊斗の手はかすかに震えている。

「幸い怪我の程度は軽かった……。でも、精神的なショックと事故のショックが重なって、それ以来、紫さんは……記憶を失った。今も、記憶は戻っていない」
「えっ……」

絶句した一毬の頬を、涙がつたう。

「一毬には、ちゃんと話すつもりだった。本当は、こんな形で伝えたくは、なかったんだけどな……」

湊斗はそう言うと、今まで見たことがない程の、悲しい瞳を一毬に向ける。

「自業自得だな。今まで一毬に隠してきた、(ばち)が当たったんだ」
「そんな……」
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