非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
信じられない様子で戸惑う一毬に、湊斗は言葉を続ける。

「だから俺は、前に進みたいと思った。でも……俺には、紫さんのことがある。楠木に言われて、改めて思い知らされた」

湊斗は目を閉じかすかに震える声でそう言うと、握りしめた一毬の手を、祈るように自分の額にあてた。

湊斗が抱える“眠りの呪い”を解きたかった。
でも……。
湊斗を苦しめている“眠りの呪い”は、あまりにも重いものだった。

一毬は再び溢れてくる涙をそのままに、その場で動けずにいた。
本当なら、何も考えずに湊斗の胸に飛び込みたい。
それなのに……紫のことが頭から離れない。

――きっと紫さんも、湊斗さんに愛されたかったんだ。私が願っていたのと同じように……。

一毬の頬を、再び涙が糸を引くように流れる。

その時、大きな音で内線電話が鳴り、一毬は一瞬ビクッと肩を震わせた。
湊斗はゆっくりと立ち上がるとデスクへ向かい、ディスプレイの番号表示を見て、小さくため息をついた。
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