非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~【コミカライズ原作】
「許されないことは承知しています。だからこそ、私は紫さんの記憶が戻るまで、彼女との関係を深めるつもりはありません」

「はっ。お笑い草ですね。まさか女を抱かないとでも言うんですか? それで義理を立てたつもりで? ばかばかしい。紫の記憶が一生戻らなかったら、どうするつもりですか」

「それも覚悟の上です」

 にらみ合う湊斗と菱山の間に、重い沈黙が流れる。

 湊斗は一歩も引く気はない。


 ――一毬は、俺と同じ気持ちでいてくれる。


 その時、入り口の扉が静かに開かれた。

 振り向いた湊斗は、思わず目を見張る。

 開け放たれた扉の前にたたずんでいたのは、紫と楠木だった。


「お父さま。もうやめてください」

 菱山は部屋へ入って来た紫の声を聞くと、眉をひそめながら隣の楠木に目をやる。

「紫。なぜ、圭吾がここにいるんですか?」

「私がお兄さまを、ここへ呼んだのです。湊斗さんが、訪ねてこられたと知って……」

 紫はそう言いながら、湊斗の前まで来るとぴたりと足を止める。

 紫の肩はわずかに震えていた。
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