非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~

ひとつになる

「社長、藤堂会長が急ぎでお越しです」

菱山は秘書の声に目を見開くと、心底安心した様子でデスクの椅子にふんぞり返る。

今朝、湊斗が来訪し、それに同調するかのように、紫や圭吾が自分に反抗してきた。
今までだったら考えられないことで、策略が明るみになった菱山が、さすがに内心焦ったのは事実だ。

――だが、父親が慌てて来たところを見ると、まだこちらに分がある。

菱山はにやりとほほ笑むと、秘書に向かって「お通ししなさい」と軽く手を上げた。
しばらくして、湊斗の父である藤堂が、硬い表情をして部屋に入って来た。

「これはこれは、藤堂会長。連日のお越し、痛み入りますねぇ」

菱山は、くくっと肩を揺すると、藤堂に片手でソファを進める。
藤堂は、やんわりとそれを断った。

「どうも息子が早朝から、菱山社長のご自宅を訪れたとか。大変ご迷惑をおかけしました」

深々と頭を下げる藤堂に、菱山は満足そうに顎を撫でる。

「いえいえ。お気になさらず。まぁ、今朝聞いた湊斗くんの戯言(たわごと)は、聞き流しておきましょう。お互い、子供には手をやきますねぇ」

再び肩を揺らす菱山に、藤堂は顔を上げると静かに目線を送る。

「そうですなぁ。いくつになっても子供は子供。親はついつい世話を焼きたくなってしまうものです」
「と、言いますと?」

藤堂の言葉に、菱山が小さく首を傾げる。
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