非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
藤堂は急に顔つきを変えると、鋭い視線で菱山を見つめた。

「息子からすべて話は聞きました。紫さんの虚言や、おたくの息子さんの内偵行為も含めて……」

菱山は眉をひそめる。

「TODOは随分と下に見られたものです。菱山社長、この度の御社との契約の話は、一旦白紙に戻させていただきます。今まで支援していただいた資金は、すべてお返し致しますのでご安心下さい」
「な、何を言って……?!」

立ち上がり、途端に狼狽(うろた)えだす菱山を横目に、藤堂は淡々と話をつづけた。

「幸い弊社には、息子を含め志の高い者がそろっておりますので、必ずや世界が注目する検査機器を作り上げてくれることでしょう。どうぞ菱山社長も、その様子を遠くからお見守りいただけると幸いです」
「ちょ、ちょっと待ってください……。元々はうちの支援で進んだ研究のはずです。今更関係を断つというのは、おかしいのではないですか?!」
「そうでしょうか? 明らかにそちらの行動は、行き過ぎていたと思いますが」

菱山は「くっ」と声を漏らす。

「私はかわいい息子をコケにされてまで、利益優先の経営を進める気はないのですよ。菱山社長、あなたももう少しご家族を大切にされた方がよろしい。でないと、その内、誰もいなくなりますよ……」

藤堂は「では」と軽く頭を下げると、颯爽とその場を後にした。
藤堂が去った社長室では、愕然とその場に立ちつくす、菱山の姿だけが残っていた。
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