一晩だけのつもりだったのに、スパダリ専務の甘い手ほどきが終わりません……なぜ?

「でも……」
「自分の部屋に他人を連れてきたのは君が初めてだ――……」

 瀧澤は椅子の前に片膝をつき、光莉を仰ぎ見た。持っていたひよこの置物を取り上げられ、そっと手を握られる。

「出水さん、私と……こいび」

 話の途中でジャケットのポケットに入っていたスマホがけたたましく鳴り響き、瀧澤が項垂れる。
 おそらく、仕事の電話だろう。

「私、帰りますね!お邪魔しました!」

 瀧澤がスマホに気を取られている隙に、光莉は玄関までダッシュし、マンションを後にした。

(び、びっくりした!あれ何だったんだろう!?)

 まるで女王陛下に献身を誓う騎士のような畏まったポーズ。
 瀧澤の真剣な目と、物言わぬ態度に恐れをなした光莉はおめおめと逃げ帰ったのだった。
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