一晩だけのつもりだったのに、スパダリ専務の甘い手ほどきが終わりません……なぜ?

「お礼を言われるくらいなら別のものが欲しい」
「別のもの?」

 瀧澤はビルとビルの隙間に光莉を誘い込み、逃げられないように壁に追い詰め顔の横に手をついた。

「君からキスして欲しい」

 吐息が当たりそうな距離でキスを求められ、光莉の顔が羞恥で赤く染まる。
 本当にそんなものがお礼になるのだろうか?先日、拒絶されたことへの意趣返しなのか?

 光莉は請われるまま、恐る恐る瀧澤の首に腕を回し、挨拶程度の頬にキスをした。自分としては精一杯応じたつもりだったのに、瀧澤は不服そうだった。

「子供じゃないんだぞ?また、いちから教えなおさないといけないのか?」
「た、瀧澤専務っ!こんなところでダメです!」
「……久志だ。瀧澤専務と呼び続けるつもりなら、さっきの名刺をあの男から取り上げてくる」

 瀧澤は真顔だった。光莉は青ざめた。瀧澤は有言実行の人だ。やるといったら本当にやる。

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