一晩だけのつもりだったのに、スパダリ専務の甘い手ほどきが終わりません……なぜ?

「俺は独身だからまだいいけど、日本から単身赴任で来てる人達はもっと大変そうだよ。奥さん子供に何かあってもすぐに駆けつけらんないしね。俺より一年先に来ていた関西支社の人も帰国するかしないかで随分悩んでたし」
「大変なんですね……」
「その点、出水ちゃんは結構向いてそうだよね。根性あるし、打たれ強そう」
「えー!そうですか!?」
「うんうん。向いてる向いてる」

 駐在員になるためには英語の他に、中国語もマスターする必要がある。
 多種多様な民族が入り混じった国ゆえに各民族のマナーや教養を学び尊重せねばならない。
 それに加え、コミュニケーション能力、メンタルも要求される。遊佐ならともかく、光莉が駐在員を目指そうなんてとても考えられない。

「あ、瀧澤さんだ」

 焼き豚丼を頬張っていた遊佐は、食事の提供を待つ行列に並んでいた瀧澤を発見した。瀧澤の後ろには秘書の中野がピタリとくっついている。

「珍しいな。瀧澤さんが社食に降りてくるなんて」
「遊佐さんは瀧澤専務と何度もお仕事されてるんですよね?」
「うん。海外事業部の中でもアジア方面は瀧澤さんの担当だしね。てか、瀧澤さん、B定の列に並んでるよ。野菜炒め食べてるとこ想像できないな〜」
「なにごと?」

 遅れてやってきた柳瀬がラーメンがのったトレーを持って二人に合流する。

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