一晩だけのつもりだったのに、スパダリ専務の甘い手ほどきが終わりません……なぜ?

「はいはい。出水ちゃんは真面目だね」

 遊佐と二人で作業を進めること二時間。待望のランチタイムがやってくると遊佐は大きく伸びをした。

「さ、席が埋まる前に食堂に行くか」

 柳瀬も食堂に誘ったが客先対応中らしいので、先に行って座席を確保しておこう。
 十五階にある食堂は多くの社員で賑わっていた。光莉はいつもの野菜炒め定食を選んだ。遊佐は焼き豚丼だ。空いていた四人がけのテーブル席につくと、食事を始めていく。

「久し振りの社食の味はどうですか!?」
「やっぱり日本の飯は最高だな」

 遊佐は束の間の一時帰国の間はとことん日本食を食べ尽くすと決めているようだった。

「シンガポールのご飯も美味しそうですけどね」
 
 アジアンフードは日本でも定期的に流行る。光莉もフォーやカオマンガイといったアジアンフードは大好きだ。

「うーん……。確かにシンガポールの飯も悪くないんだけど、やっぱり駐在員って色々と大変なんだよ。水とか気候とか?合わない人はとことん合わないしね。知らない土地で暮らすっていうのも、メンタル強くないとやっていけないし」

 遊佐から聞く駐在員あるあるは光莉には新鮮だった。愚痴がすぐに出てくるくらいには遊佐も苦労しているようだ。

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