一晩だけのつもりだったのに、スパダリ専務の甘い手ほどきが終わりません……なぜ?

「今はお付き合いしている男性はいないって、妻から聞いてね。それなら、うちの息子はどうかなと思ってね。ほら、この間の結婚記念パーティーでも楽しそうに話していたじゃないか?」

 ……全ての謎が解けた。
 安西夫人から恋人の有無をきかれたり、パーティーに招待されたり。ただの社交辞令にしてはなんか変だと思っていた!
 つまり、安西夫妻は光莉を自分の息子である征也の嫁候補として密かに品定めしていたのだ。
 お見合いを打診されたということは、すでに採点は終わっており合格点をもらえたらしい。

「どうかな?」
「え!?あ、でも……」

 返答に窮して、瀧澤に視線を送る。助けてくれないだろうかと期待するが、ふいと目を逸らされてしまった。

(あ……)

 ……その時、光莉はようやく理解した。
 光莉が瀧澤を拒絶した時点で二人の曖昧で不確かな甘美な関係はすべて終わってしまったのだと。
 瀧澤にとってサンライズホテルグループは大事な取引先だ。
 恋人でもない女性を巡って、安西会長の不興を買う気はないなだ。
 光莉が瀧澤のためにできることといったらTAKIZAWAのいち社員としてお見合いをすることだけだ。

「……私でよろしければ喜んで」

 断って角が立っては、これまでの苦労が水の泡だ。光莉は見合いに応じることにした。
 執務室から退室すると、法人営業部に戻る前にお手洗いに駆け込む。

「馬鹿だなあ……」

 瀧澤はこちらを一瞥もしなかった。
 にもかかわらず、光莉は全身で瀧澤の存在を感じ取っていた。
 どれだけ忘れたいと願ったところですべて無駄に終わるに決まっている。
 身体で覚えたことは死ぬまで一生消えやしないのだから。
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