一晩だけのつもりだったのに、スパダリ専務の甘い手ほどきが終わりません……なぜ?

(平常心、平常心……)

 光莉は執務室までやってくると、意を決して扉を開けた。

「やあ、光莉ちゃん」
「安西会長!」
 
 執務室のソファにはなんと安西会長が座っていた。
 
「今日は光莉ちゃんにお礼が言いたくてね。瀧澤くんに呼んでもらったんだ。ほら、例の学習机がこの間届いたんだよ。寧々も大喜びでさ!」
「わあ!よかったです!」

 安西会長からの直々の注文ということもあり、寧々の学習机は光莉が商品の手配を行ったのだ。無事に届いたようで良かった。

「これ、寧々から。光莉おねえちゃんに渡してくれって」

 安西会長から可愛らしい苺柄の便箋を渡される。安西会長にお遣いを頼むなんて、寧々は大物に違いない。

「わあ……!とっても上手!ありがとうございます!」

 寧々からの手紙にはクレヨンで描いたショートケーキの絵と『ありがとう』の文字が添えられていた。届いたばかりの学習机に座って、一生懸命書いたと思うとほっこりする。

「それでね、今日は光莉ちゃんにちょっとしたお願いがあるんだ」
「私に、ですか?」

 テニスのお誘いだろうか。光莉はもう瀧澤とダブルスを組むつもりはない。
 対戦を要求されたら出来ないと説明する必要がある。
 しかし、安西会長の『ちょっとしたお願い』は光莉の予想を上回るとんでもないものだった。
 安西会長はにんまりと笑みを浮かべた。

「うちの息子とお見合いしてくれない?」
「お見合い!?」

 なぜ、安西会長がお見合いの斡旋を?驚きで目をパチクリさせていると安西会長が説明し始める。

< 177 / 198 >

この作品をシェア

pagetop