一晩だけのつもりだったのに、スパダリ専務の甘い手ほどきが終わりません……なぜ?
(平常心、平常心……)
光莉は執務室までやってくると、意を決して扉を開けた。
「やあ、光莉ちゃん」
「安西会長!」
執務室のソファにはなんと安西会長が座っていた。
「今日は光莉ちゃんにお礼が言いたくてね。瀧澤くんに呼んでもらったんだ。ほら、例の学習机がこの間届いたんだよ。寧々も大喜びでさ!」
「わあ!よかったです!」
安西会長からの直々の注文ということもあり、寧々の学習机は光莉が商品の手配を行ったのだ。無事に届いたようで良かった。
「これ、寧々から。光莉おねえちゃんに渡してくれって」
安西会長から可愛らしい苺柄の便箋を渡される。安西会長にお遣いを頼むなんて、寧々は大物に違いない。
「わあ……!とっても上手!ありがとうございます!」
寧々からの手紙にはクレヨンで描いたショートケーキの絵と『ありがとう』の文字が添えられていた。届いたばかりの学習机に座って、一生懸命書いたと思うとほっこりする。
「それでね、今日は光莉ちゃんにちょっとしたお願いがあるんだ」
「私に、ですか?」
テニスのお誘いだろうか。光莉はもう瀧澤とダブルスを組むつもりはない。
対戦を要求されたら出来ないと説明する必要がある。
しかし、安西会長の『ちょっとしたお願い』は光莉の予想を上回るとんでもないものだった。
安西会長はにんまりと笑みを浮かべた。
「うちの息子とお見合いしてくれない?」
「お見合い!?」
なぜ、安西会長がお見合いの斡旋を?驚きで目をパチクリさせていると安西会長が説明し始める。