一晩だけのつもりだったのに、スパダリ専務の甘い手ほどきが終わりません……なぜ?

 瀧澤一族の御曹司たる久志には、何もしなくとも昔から女性が擦り寄ってきた。

 何人かと付き合ってはみたが、皆、打算的で都合の良い理想を押し付けられては、勝手に何かを期待し、勝手に幻滅された。

 性格の良し悪しや、言葉の裏表を論じる必要がないという意味で、光莉と一緒にいると気持ちが楽だった。
 スポーツがさほど好きではない久志だが、光莉とのテニス練習では、身体を動かす楽しみを見出すことが出来た。

 だからこそ、抱いて欲しいと懇願した理由を聞かされた時は絶句した。

 快活で素直な性格はデリケートな悩みごとがあるとは一切感じさせなかった。
 そそられないなどと元カレから不当な言いがかりをつけられたのは明白だった。けれど、彼女は自分が悪いと思い込んでいた。

(バカバカしい……!)

 久志は元カレとやらに、はらわたが煮えくり返りそうになった。光莉に消えない傷を負わせた男を絶対に許すことはできない。
 それと同時に、彼女の願いを叶えてやりたいという不思議な気持ちが芽生えた。
 一晩だけの関係になることは自分の信条に反する行為だった。
 それを曲げたのは光莉への同情心に他ならなかった……はずであった。

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