出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
笑顔の由香に「また来てね」と見送られ、実乃莉たちは次の場所へ向かった。それがどこなのか聞いてはいないけれど、龍と一緒にいられるならどこでも構わない。実乃莉は助手席から真っ直ぐ前を向くその横顔を盗み見ていた。
「さっきは……悪かったな」
不意に龍の低い声が響く。実乃莉は何のことなのかと不思議に思いながら横を向いた。
「……写真。しかも会ったこともない兄貴に送るって。興味あるとは思えないんだけどな」
龍はハンドルを握ったまま苦々しい表情を浮かべている。
外務省に勤務している龍の兄虎太朗は、由香から聞いたところに寄ると今はヨーロッパにある大使館にいるらしい。というより、外務省に入省後は圧倒的に海外勤務のほうが多く『わかってはいたけどやっぱり寂しいかな』と由香は口にしていた。
しかし由香が自分の夫に写真を見せると言い出したのは、本当は自分のためではないだろうかと実乃莉は思う。もちろん虎太朗にも送るのだろう。だが由香は、自分のスマートフォンで写真を撮ったあとこう言った。
『実乃莉ちゃんも写真撮る? せっかくだし』
二人で並んだ写真は誰かに撮ってもらわなければ難しい。実乃莉は半分諦めていたところにそう言われて由香に写真を撮ってもらったのだ。
消せない思い出が、また一つ増えたことに喜びを感じながら。
「お兄さまとは、会われてないんですか?」
「そうだな。兄貴もめったに帰ることないし。二年近くかな。今じゃ由香さんと姪っ子のほうが家族みたいなもんだ」
そう口にする龍の口角が上がる。それだけでその二人を大切にしているのが感じ取れた。
「姪っ子さんがいるんですね。おいくつなんですか?」
「あ〜……。今年十四。中二だな」
それを聞いて、実乃莉は「えっ!」と声を上げる。もちろん、由香にそんな大きな子どもがいたことに対してだ。
「驚くだろ? ちなみに兄貴は俺の二つ上で、由香さんは兄貴の三つ上」
「ということは……」
由香の年齢が三十九才なのにも驚くが、姪が生まれたときの兄の年齢を考えるとより驚き声を失ってしまう。
それを察したのか龍から先に切り出した。
「兄貴、どうしても由香さんと結婚したかったらしい。こうでもしないと認めて貰えないって。入省も決まってたけど一度は蹴ろうとしたらしい。けど由香さんが止めた。ずっと目指してたんだからって」
赤信号に向かい緩やかにスピードを落とす車内に、龍の複雑そうな溜め息が漏れた。
「さっきは……悪かったな」
不意に龍の低い声が響く。実乃莉は何のことなのかと不思議に思いながら横を向いた。
「……写真。しかも会ったこともない兄貴に送るって。興味あるとは思えないんだけどな」
龍はハンドルを握ったまま苦々しい表情を浮かべている。
外務省に勤務している龍の兄虎太朗は、由香から聞いたところに寄ると今はヨーロッパにある大使館にいるらしい。というより、外務省に入省後は圧倒的に海外勤務のほうが多く『わかってはいたけどやっぱり寂しいかな』と由香は口にしていた。
しかし由香が自分の夫に写真を見せると言い出したのは、本当は自分のためではないだろうかと実乃莉は思う。もちろん虎太朗にも送るのだろう。だが由香は、自分のスマートフォンで写真を撮ったあとこう言った。
『実乃莉ちゃんも写真撮る? せっかくだし』
二人で並んだ写真は誰かに撮ってもらわなければ難しい。実乃莉は半分諦めていたところにそう言われて由香に写真を撮ってもらったのだ。
消せない思い出が、また一つ増えたことに喜びを感じながら。
「お兄さまとは、会われてないんですか?」
「そうだな。兄貴もめったに帰ることないし。二年近くかな。今じゃ由香さんと姪っ子のほうが家族みたいなもんだ」
そう口にする龍の口角が上がる。それだけでその二人を大切にしているのが感じ取れた。
「姪っ子さんがいるんですね。おいくつなんですか?」
「あ〜……。今年十四。中二だな」
それを聞いて、実乃莉は「えっ!」と声を上げる。もちろん、由香にそんな大きな子どもがいたことに対してだ。
「驚くだろ? ちなみに兄貴は俺の二つ上で、由香さんは兄貴の三つ上」
「ということは……」
由香の年齢が三十九才なのにも驚くが、姪が生まれたときの兄の年齢を考えるとより驚き声を失ってしまう。
それを察したのか龍から先に切り出した。
「兄貴、どうしても由香さんと結婚したかったらしい。こうでもしないと認めて貰えないって。入省も決まってたけど一度は蹴ろうとしたらしい。けど由香さんが止めた。ずっと目指してたんだからって」
赤信号に向かい緩やかにスピードを落とす車内に、龍の複雑そうな溜め息が漏れた。