愛され庭師は悪役令嬢に巻き込まれ……いえ、今世こそ幸せにしてあげたいです!
「このクッキーは、私のために作ったのか?」

「うん、そうだよ。バジルとチーズのクッキー」

「私はオレガノの方が好みなのだが……」

 ヴィアベルの口から、ついて出た言葉。
 うっかりとしか言いようのない失言に、誰よりもヴィアベルが狼狽えた。
 言うべきではなかったと、今更ながらに「バジルも嫌いではない」だなんてフォローしたって、もう遅い。
 またいつものようにビービーメソメソ泣いてしまうか⁉︎ と焦るヴィアベルに、しかしペリウィンクルは泣かなかった。

「……私って、何も知らないんだなぁ。パパのことも、ママのことも……おじいちゃんやあなたのことだって、私、何も知らない。ねぇ、あなたは知っている? 知らないってとても怖いことなのよ」

 ヴィアベルは、六歳の女の子という生き物をよく知らない。
 知らないが、幼い子供はこんなことを言うものなのだろうかと疑問が浮かんだ。
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