愛され庭師は悪役令嬢に巻き込まれ……いえ、今世こそ幸せにしてあげたいです!
 それもそうか、とペリウィンクルは思う。
 こんな風に彼の背中に手を回すのは、随分と久しぶりのことだ。
 あの時は深い安らぎを感じるだけだったけれど、今はそれに胸の高鳴りも加わった。

「愛している……ペリウィンクル」

 耳元に寄せられた形の良い唇が、ペリウィンクルに愛をささやく。
 いつもは「おまえ」と言ってくる小憎たらしい唇が真摯に名前を呼んできたら、もう駄目だった。

「ヴィアベル……」

 ペリウィンクルの世界から、あらゆるものが消えていく。
 目の前にいるヴィアベルのことしか考えられなくなって、彼のことしか見えなくなった。
 それが少しだけ怖くて、安心したくて彼に身を寄せる。

 気付けば、至近距離でヴィアベルと視線を絡ませていた。
 鼻と鼻がツン、と当たる。
< 291 / 322 >

この作品をシェア

pagetop