聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!
「ありがとうございます。」
菜々がそう言うと、矢嶋も「こちらこそ」と言って嬉しそうに笑った。
「じゃあ、俺はこっちだから。またな。」
改札を並んで通った後、矢嶋はそう言って、菜々の向かうホームとは反対側を指差した。
「はい、また。今日はありがとうございました。それじゃ。」
「…あ、橋本ちゃん!」
そう言って、帰ろうとした菜々に、矢嶋が声をかけた。
「今日、辛かったと思うけど、よく泣かなかったね。エライ。」
そう言うと、矢嶋は手を上げて、帰っていった。
――そっか。相良君に彼女がいるって話だったっけ。
自分でもびっくりするくらい、忘れていた。
相良に彼女がいたという事実にショックを受けたことは、矢嶋と連絡先を交換できたという嬉しさで、あっさり上書きされていた。
――これで、いつでも矢嶋先輩と連絡とれるんだ。
嬉しくて、電車の中でも、何度も矢嶋のアイコンを眺めた。