絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 周囲から結婚を急かされていたときは、夫になる人の造形などどうでもいいと思っていたが、いざマティアスと式を上げる段階になってみると、自分が好ましいと思うタイプの顔であるに越したことはないような気がしてきた。

(マティアス様のお顔を見ていると、なんだか妄想がはかどりそうだわ。彼を主役にするのなら、どんな青年を相手役にしようかしら)

 これは執筆が進みそうだと考えていると、
「――グッ」
 地面をにらみつけているマティアスから謎のうなり声が聞こえた。
 おなかが空いているのだろうか。

「マティアス様?」
「――大丈夫です。なんともありません」

 マティアスはなぜか左の胸のあたりを手のひらで押さえ、何度か深呼吸をしつつ視線をさまよわせた後、思い切ったように立ち上がった。

「さ、参りましょう」
「……はい」

 様子がおかしかったのは気のせいだったようだ。

 とにかく少し話しただけでわかった。マティアスはとても親切な男性だし、フランチェスカをひとりの女性として尊重してくれるタイプの人間だ。
 もしかしてフランチェスカが部屋にこもって小説を執筆していても、内容さえバレなければ、文句は言わないかもしれない。

(私は運がいいわ。やっぱりこの結婚は間違っていなかった!)

 フランチェスカは彼の手を取り、自由な生活のスタートを切れる幸福をしっかりとかみしめたのだった。



< 36 / 182 >

この作品をシェア

pagetop