推しの歌い手さま~想像してたのと違うんだが…~
航太は穂香に背を向けたまま言う。


航太「もう着替えた?俺、見ないから安心していいよ」


穂香は怪我した右足を引きずりながら草むらに隠れて着替え始めた。


穂香「ちょっと待って。絶対に見ないでよ?」


航太「別に見たくない」


穂香は着替えながら思った。


穂香(いちいち見たくない。とか言われるのも傷付くんだが……
可愛くないとか、女らしくないと言われてるみたいで……)


穂香着替え終わると、草むらから出てきた。


穂香「着替えたよ?服を貸してくれてありがとう」


穂香は少し大きな黒いシャツと黒のスウェット姿。

まだ「ありがとう」と言うのに照れてしまう穂香は、赤く頬を染めながら、航太に近付いて背後に立った。


穂香「じゃあ帰ろっか?」


航太が穂香を見上げるように顔を向けて、不思議そうな表情を見せて首をかしげる。


航太「ん?遠足の思い出がほしいんじゃないの?さっき半泣きになりながら、先生達にそんな事を言ってなかったっけ?」


穂香「言ったけど。半泣きは余計かも……」


いちいち一言多い航太が、膝を立てて手を後ろに回した。


航太「ほら。乗れば?俺が思い出を作ってあげるから……」


穂香「へっ……?あ……そ……そんなの悪いし……」


穂香は断りながらも、もしかしたら山頂まで?と心の中で思う。


航太「早くしないとここに置いてくぞ?」


穂香「それはやだ……重かったり疲れたりしたら、正直に言ってね?」


穂香は航太の好意に甘えるように、背中にしがみついた。


穂香(男子と顔の距離が近いって!!
こんなの生まれて初めてなんだけどーーっ!!)





(山を登り始めて間もない山道。終了)
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