甘い罠、秘密にキス



「なんだよお前のその服装は」


私服に着替え終わった私を見た桜佑が、開口一番そう放つ。「そんなこと言われてもこういう服しか持ってないし」と返せば、「ふーん」と怪訝な目を向けられた。


あのあと結局1時間くらい桜佑の腕の中に閉じ込められて、危うく襲われそうになったけれど、さすがにまだ昨日の疲労が残っているため、丁重にお断りした。

それから本題の“デート”に移ったわけだけど、昨日は仕事帰りに直接桜佑の部屋に泊まった為、仕事着で出掛けるわけにもいかず一度桜佑と私の住むアパートまで帰ってきた。

そして私服に着替えた私を見て、桜佑が不服そうに眉を顰めている。

そんな私の服装は、オーバーサイズのパーカーに黒のスキニーパンツ、キャップを被ったボーイッシュコーデ。

この格好で外に出ると大抵の人に男性と間違えられるけれど、幼い頃からこういう格好しかしてこなかったんだからそんな顔されても困る。

そもそも私の部屋に可愛らしい服なんて1着もないし、自分に似合うとも思えないし。


「俺のこと男として見てない証拠だよな」

「なんでそうなるの。本当にこういうのしか持ってないんだから仕方ないでしょ」

「肯定しなかったってことは、俺のこと男して意識してくれてんだ?」

「え、いや、別にそうとも言ってな…」

「だったら今日は、ちゃんと俺が婚約者だと思ってデートしろよ」

「……」


なんだこの誘導尋問みたいな会話は。これ以上この男と話をしていたら、どんどん流されそうで怖い。


「とりあえずご飯食べに行こう」

「おい無視すんな」


返事をせずに部屋を出ようとしたら、すかさず手を取られ指を絡められた。不意打ちの恋人繋ぎというやつに、心臓がドキッと跳ねた。


意識しないわけないでしょ。着替えの時、胸元につけられたキスマークを見て、どれだけドキドキしたと思ってんの。

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