甘い罠、秘密にキス
手を繋いだまま外を歩いて思ったのは、せめてキャップだけでも置いていけばよかったなってこと。
だって、周りから男性同士に見られていないかソワソワしてしまうから。
目立たないように敢えて帽子を深く被ってみるけど、桜佑が高身長で顔も整っている方だからか、とにかく目立つ。その隣にいる私も女性にしては高身長だし、さっきから周りの視線が痛くて仕方がない。
「桜佑さん、手を離して歩きませんか」
「却下」
やはり即答。考える素振りすら見せない。
桜佑はこの視線を何とも思わないのだろうか。
「ほら、私達大きいし並んで歩いたら通行人の邪魔になるでしょ?」
「だから1列に並んで歩けって?そんなカップルがどこにいるんだよ。つか婚約者なんだから手は繋がないとダメだろ」
「そんなことはないと思うけど」
「だったらお前の腰を抱いて歩こうか?それともお前が俺の腕を掴む?」
「……」
どうやら彼に“離れて歩く”という選択肢はないらしい。繋がっている手にぎゅっと力を込めた桜佑は「どれにする?」と首を傾げる。
「……このままでいいです」
渋々頷くと、桜佑は満足気に微笑んだ。
なぜか昔から桜佑に勝てない。桜佑以上に私は押しに弱い。だけどこうして従ってしまうのは、そこに悪意がないのが伝わってくるから。
むしろ嬉しそうにしている桜佑を見るとこっちまで嬉しくなるから不思議だ。