甘い罠、秘密にキス

じゃんけんで勝った桜佑が機械の前に立つ。隣で見守る私に「プレッシャー与えてやるから」と自信満々に放った桜佑は、お金を入れるとボールを手に取った。


「やべーこういうの久しぶりにするわ」


独り言を呟きながらボールを構える姿を見て、思わず息を呑む。そのフォームは昔と変わらず綺麗で、一投目のシュートは軽々とゴールリングに吸い込まれた。


「…あんたもしかして毎日練習してる?」

「んなわけねえだろ」


そう言いながらも次々とシュートを決めていくから、唖然としてしまう。練習する暇なんてないのは分かっているけれど、あまりにも簡単に入れてしまうから驚きを隠せない。

どうやら私は、勝負を挑む相手を完全に間違えたようだ。


「手加減してくれないの?」

「これでもしてる方」

「嘘つき」


悪戯っぽく笑う桜佑を見て、昔の彼と重ねてみたけれど、ボールを持つその手は昔と比べて遥かに大きく、指も長い。その男らしい骨ばった手で持たれたボールが、小さく見える。

何もかもがあの頃と違う。そして、その横顔に見惚れてしまっている私も、またあの頃と全然違うことに気付いた。

昔は抱くことがなかった感情が、じわじわと胸の奥に広がっている。

──桜佑って、こんなにも格好良い男だったんだな。


「はい、次はお前の番」


ぼーっとしている間に終わっていたらしい。ふと得点を見ると、とんでもない数字になっていて思わず二度見した。


「罰ゲーム何にしよっかなー」

「ちょっと、罰ゲームがあるなんて聞いてないんだけど。ていうか、まだ勝負は決まってないからね」


言い返す私に「まぁ頑張れ」と破顔する桜佑を見て、その笑顔に思わず心臓が跳ねた。

機械の前に立っても、まだ心臓が波打ってる。落ち着くどころかどんどん脈がはやくなる。

なにこれ、めちゃくちゃドキドキする。罰ゲームがあるって聞いて、緊張してるのかも。

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