甘い罠、秘密にキス

「そっか、慣れてないんだ。ふーん」

「お前いまちょっとバカにしただろ」

「ううん、全然」

「顔がニヤついてんぞ」


バカにしてるんじゃなくて、ちょっと嬉しいんだよ。桜佑っていつも余裕があるように見えるし、何でも上手にこなすから。

桜佑にも弱点というか、苦手こともあるのだと思うと、なんか嬉しい。

まぁ、言ったら怒りそうだから言わないけど。


「それよりこれから何するよ。お前は行きたいとことか、やりたいこととかねえの?」

「えー、行きたいところかあ…」


勿論私もデートに慣れていないから、どこに行けば楽しめるかなんて分からない。


「この時間からなら結構どこでも行けるけど。映画?水族館?」


そういえば藤さんとも何回かデートをしたけれど、ずっと気をつかっていた記憶しか残っていない。

女性らしくヒールを履いた方がいいのかなって思ったこともあるけど、藤さんより背が高くなるのが嫌で結局スニーカーだった。

定番の映画館や水族館にも行ったけど、藤さんがちゃんと楽しめているのかが気になって、自分が楽しむ感じではなかった。

きっと私は、藤さんのことをあまりにも知らな過ぎたのだと思う。


「甘えるって約束なんだからな。どこでもいいは無し…」
「私、あれがしたい」


ふと視界に入った、ショッピングモールの一角にあるゲームセンター。
そこにある、バスケットボールのシュートゲームを指さして懇願すると、桜佑は分かりやすく眉を顰めた。


「……お前、俺の話をちゃんと聞いてたか?俺はもっとデートらしく…」

「久しぶりに桜佑と勝負したい」

「は?」

「昔は負けてばっかだったけど、今なら勝てるかもしれないから」


近所の公園でよく勝負をしていたけれど、いつだって私はぼろ負けだった。それが悔しくて、隠れて練習したのを覚えてる。

結局一度も勝つことは出来なかったけど、バスケットゴールを見るとなんだか懐かしい気持ちになって、思わず勝負を挑んでしまった。


「お前が俺に勝てるわけねえだろ」

「そんなのやってみないと分かんないでしょ」


ほら、行こう。と手を引くと、何だかんだやる気なのか「絶対負けねえから」とムキになる桜佑を見て、思わず笑みが零れた。

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