甘い罠、秘密にキス

「…桜佑の理想の家庭像って、凄くあったかいね」


素直な気持ちを伝えると、桜佑は眉を下げ、困ったように笑いながら静かに口を開く。


「まぁ、そう簡単に上手くはいかないんだろうけど。残業ばっかしてたら料理をする時間だってないわけだし、皆で食卓を囲むのも難しくなるだろうし。それに俺はそういう家庭で育ってないから、正直具体的な想像が出来ない。ざっくりとした理想しか言えないけど、とりあえずそこに伊織がいて欲しいとは思う」

「やっぱりそこには、私がいるんだね」

「むしろお前がメインだから」


そう言って再びお粥を口に運ぶ桜佑を見て、思わず頬が緩んだ。

きっと、誰もが理想とする家庭像だと思うけど、桜佑の言葉で、忘れかけていた大事な何かを思い出した気がした。

桜佑と結婚する人は、きっと幸せになれるだろうな。そんな桜佑の見る未来に私がいるって、すごく贅沢で、とてもありがたい話だ。

そして、そんな桜佑を私がそばで支えられたらいいなって、思ってしまう自分がいた。


「…桜佑、お母さんがいなくて寂しかったよね」

「昔はそう思ってたかもしれないけど、もう慣れたというか、物心ついた時から家庭は崩壊してたから、これが普通ではある」

「……」

「それに、あの頃はとにかく色々なことに必死で、寂しいとか感じる余裕もなかった気がするし」


昔の私は、どうしてもっと察してあげられなかったんだろう。あの頃は桜佑の苦労なんて考えたこともなくて、むしろ自分を守ることに精一杯で、桜佑を避けてた。

家で一緒にご飯を食べる時も、もっと歓迎してあげたらよかった。桜佑が私をいじめながらもそばにいたのは、桜佑なりに助けを求めていたからなのかもしれないのに。

それにしても、桜佑がこうして自分の家庭について話すなんて珍しい。体が弱ると、こんなにも素直になるんだ。

桜佑って、私が思っている以上に常に気を張っている人なのかも。

これからは、私が少しでも桜佑の安らげる存在になれたらいいな。

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