甘い罠、秘密にキス
「桜佑は偉いね。凄く真っ直ぐ。私、今までのこと桜佑に謝りたくなってきた」
「…え?」
「私はずっと、桜佑は意地悪でめちゃくちゃ嫌な奴だって思ってた。常に桜佑の悪いところばかりを探して、桜佑から逃げる言い訳を作って…」
ぽつぽつと紬ながら、ふと桜佑の手元を見ると、お粥が入っていたお皿はいつの間にか空になっていた。
お粥を食べ終え、今度はりんごに手をつけようとしていた桜佑は、私の言葉に対して言い返してくるどころか「まぁそうだろうな」と苦笑しながら頷く。
「謝るとか、別にそういうのいらねえから。普通に考えてお前は何も悪くないし」
「でも、逃げずにきちんと向き合えばよかったと思ってる」
なぜだか無性に桜佑の熱が恋しくなって、気付いた時には桜佑の隣に移動していた。キョトンとする桜佑の手を取り、そっと自分の指に絡めると、熱のせいかその手はいつもの何倍も熱く感じた。
「桜佑のいいところ、もっとちゃんと見てあげればよかったね」
「なんだそれ。どうした急に」
「桜佑って、勉強もスポーツもなんでも完璧にこなすでしょ?それでいて、周りを惹き付ける力もあって」
「そんな褒められると逆に怖えな」
桜佑のこと、今まで誰が褒めてあげてたんだろう。桜佑を見守ってくれる人が、ひとりでもいたのかな。
「昔は桜佑のそういうところがすっごく憎かったんだけど」
「おい、今度は悪口か」
「でも、大人になって気付いた。全部桜佑の努力の結果だったんだなって」
「……」
「勉強やスポーツだけじゃない。仕事も出来るし、その生活力にも感心させられてばっかで…」
矢継ぎ早に喋り続けたあと「あれ、結局何が言いたかったんだっけ」と零す私に、桜佑は「もうこの話は終わりでいい」と少し照れたように笑う。そのあどけない笑顔に、また胸が締め付けられた。
ねぇ桜佑。大変な環境で育ったにも関わらず、こんなにも心が綺麗な大人になれるって純粋に凄いよ。
「…桜佑、抱き締めてもいい?」
手を握るだけじゃ、どうしても足りなかった。
口をついて出た言葉に、桜佑は一瞬驚いた顔を見せたけど
「風邪がうつっても文句言うなよ」
そう放ったと同時、大きな体で私を包み込んだ。