甘い罠、秘密にキス

「そ、うなんですか」


平静を装うも、内心焦りまくっていた。

どこから噂が流れたのだろう。先週までそんな話題はひとつも出ていなかったのに。


「あら、知らなかったの?日向リーダーのこと見てたから、てっきり佐倉さんも…」

「今度のプレゼンのことで日向リーダーに相談があるので、話しかけるタイミングを見計らっていたんです」

「なるほど、そうだったのね。日向リーダーいつも忙しそうだし、クールだから声をかけづらかったりするものね」


でも彼はとってもイケメンだから、私は用がなくても見つめちゃうわ。と矢継ぎ早に紡ぐ煮区厚さんは「うふふ」と桜佑を横目で見つめる。

なんとか誤魔化せたことに安堵しつつ、なぜ急にそのような噂が立ったのかと思考を巡らせると、ふと思い浮かんだのは一昨日の土曜日のことだった。

あの日、私達のデート現場を誰かに目撃されていたのかもしれない。
私があんな服装だったから、男友達だと思われる可能性もあるけど…堂々と手を繋いでたのがマズかったかな。相手が私だってバレてたらどうしよう。


「煮区厚さん、ちなみにそれは誰情報ですか?何かの間違いだったり…」

「あら、間違いなんかじゃないわよ。大沢(おおさわ)くんが本人から聞いたって言ってたもの」

「本人から?!」


ちょっとちょっと、どういうこと?!そんな話、私は聞いてないんですけど?!

大沢くんは営業課で私の後輩。つまり桜佑の部下で、金曜日に桜佑が参加した飲みのメンバーに、確か彼も入っていたはずだけど…。


「金曜日に大沢くんや日向リーダー達が飲みに行ったらしくてね。でも日向リーダー、急用で先に帰っちゃったみたいで」

「……」

「その時、焦った様子で“彼女を今すぐ迎えに行かなきゃいけない”って、全員分の飲み代を置いて出て行ったんですって。なにからなにまで男前よね~」


──あぁ、頭が痛い。


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