甘い罠、秘密にキス

08.嫉妬心にキス



──始業時刻10分前、平然とオフィスに入ってきた桜佑に思わず目を見張った。


昨日あんなにもしんどそうだったのに、仕事に来るってどういうこと。熱は下がったのかな。桜佑のことだから、また無理してたりして。

恐らく今日は休むだろうと思っていたから、敢えて連絡しなかったのに。こんな事なら、昨日あのまま泊まって無理やりにでも休ませればよかった。


「佐倉さん」

「わっ」


突如後ろからぬっと現れた煮区厚さんに、ビクッと肩が大きく揺れた。

びっくりした。ぼーっとしていたせいで、全く気配に気付かなかった。


「煮区厚さんおはようございます」

「おはよ」


私の肩に手を置いた煮区厚さんは、なぜかニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。

思わず「何かありました?」と尋ねると、煮区厚さんは「ふふ」と笑い声を零したあと、ゆっくりと口を開いた。


「佐倉さん、いま日向リーダーのこと見てたでしょ」

「ひぇっ?!」


やば、変な声出た。焦りからか声が裏返った。

私、そんなに桜佑のこと見てた?確かに奴のこと考えてたけど、他人に気付かれるって普通にヤバい。

この会社の人は、私達が婚約していることは勿論、幼なじみであることすら知らない。ただの桜佑ファンだと思われても困るし、もっと気を付けないと。


「もしかして佐倉さんもあの噂(・・・)を聞いたの?」

「……え?」


あの噂、とは?


「日向リーダー、()がいるんですってね」


──え?


私に向かってドヤ顔で小指を立ててくる煮区厚さんの言葉に、思わず息を呑んだ。

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