甘い罠、秘密にキス
「こら、桜佑…っ」
「今更だけど、会社で呼び捨てされんのなんかいいな。特別感ある」
耳元でクスクス笑われてくすぐったい。
咄嗟に目の前の大きな胸を押したけど、すかさずその手を取られ、そのまま抱き締められた。
「ちょっと何言ってんの。てか離して。会社ではあんまりくっつかないでよ」
「とか言って、先にデコくっつけてきたのはお前だけど」
「…あ」
「お前が自分からくっついてきたのが可愛すぎて、キスせずにはいられなかった。てことで今のはお前が悪い」
「こ、これは桜佑の体温を測るために仕方なくしたことで…」
「伊織、だいぶ俺に慣れてきたよな。婚約者らしくなってきた。もうこれでいつでも」
「婚姻届は出さないからね?」
「ケチ」
そう言いながらも楽しそうに笑っている桜佑の腕を無理やり引き剥がし、数歩下がって距離を取ると、桜佑は「お前無駄に力強えんだよ」と唇を尖らせた。
「どうせまたゴリラって言うんでしょ。こんな女と婚約して本当に大丈夫?」
「そういうところもまるっと愛してやるから安心しろ」
「っ……なんで会社でサラッとそういうこと言うかな…」
この人、やっぱ熱で頭おかしくなってんじゃないの?じゃなきゃ普通こんなクサイ台詞、堂々と言えないでしょ。
「まぁまだ完治はしてないし、今日はこれ以上くっつくのはやめとくわ」
意外とアッサリ引き下がった桜佑に思わず怪訝な目を向けると、一歩だけ距離を詰めてきた男はゆるりと口角を上げる。
その不敵な笑みに、ぞくりと背筋が震えた。
「だって、治ってからいっぱいくっつく約束だもんな」
「……」
「俺ら、婚約者だし」
それは昨日、私が勢いで言ってしまった言葉。あんなに弱っていたくせに、ちゃんと覚えていたなんて。
「まじで朝まで離さないから、覚えとけよ」
どうしよう、全然冗談に聞こえない。誰か助けて。