甘い罠、秘密にキス
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「佐倉さん」
桜佑と別れ、会社のすぐそばにあるコンビニで栄養ドリンクを2本購入し、再びオフィスに戻るため廊下を歩いていると、ふと後ろから声を掛けられ、弾かれたように振り返った。
「いま、少しだけお時間いただけますか」
まるでさっき私が桜佑を連れ出したように声を掛けてきた人物は、周りをキョロキョロと確認しながら尋ねてくる。
「井上さん…どうしました?」
「ちょっとお伺いしたいことが。ここではアレなんで、こちらに」
声を掛けてきたのはマーケティング部の井上さんという女性で、歳は確か私より2つ下で川瀬さんと同期だった気がする。
若いのに物怖じせず積極的に発言する子で、しっかりしていて期待されている存在だとか。
でも見た目は身長150センチくらいでとても小柄で、身に付けているものもいつもオシャレで、私から見ると守ってあげたくなるような女の子。
そんな彼女が、私になんの用だろう。
彼女を纏う空気が、若干重いような…。なんとなく、仕事の話ではない気がする。
それに“ここではアレなんで”のアレって、一体どういう意味だ?
「佐倉さん、率直にお聞きしますね」
「…?」
休憩スペースの隅の方へ連れてこられ、小声で話しかけてくる彼女と目線が合うように、腰を折って耳を傾ける。
「いま、日向リーダーに彼女がいるって噂が流れていると思うんですけど」
まさかここで桜佑の名前が出てくるとは思わず、動揺して思わず視線が泳いでしまった。そんな私を余所に、彼女は続けて口を開く。
「その彼女って、佐倉さんのことですか?」
「……え?」
ドクン、と心臓が大きく波打った。
恐る恐る井上さんに視線を向けると、射抜くような目で私を捉えていた。
1本は桜佑に渡そうと思っていた手元のドリンクを、無意識にぎゅっと握りしめた。