甘い罠、秘密にキス
桜佑の真っ直ぐな視線に、思わず息を呑む。
「本当に?」
「……」
「本当に見惚れた?」
井上さんみたいに可愛いことが言えたら──そう思って勢いで頷いてみたけど、改めて確認されると返事に困る。やっぱりいつものように“そんなわけないでしょ”とか“自惚れ過ぎ”とかって否定すればよかった。
「なんちゃって」と誤魔化そうとしたけど、桜佑の射抜くような視線がそれをさせてくれない。もう一度頷くまで離さない、とでも言うように、桜佑は私の手首をずっと握っている。
「…えっと…」
「……」
「最近大きなプロジェクトの件で、桜佑頑張ってるでしょ?あのガキ大将みたいだった桜佑が真面目に仕事してる姿を見て、感動したというか…」
それも嘘ではないけど、本当は違う。でも、桜佑と井上さんのことが気になって見てるなんて、口が裂けても言えない。
「…それだけ?」
「え、」
「なんかそれだけじゃない気がすんだよな…」
上手く誤魔化せたと思ったのに、桜佑は私の褒め言葉を受けて喜ぶどころか、眉間に皺を寄せて怪訝な顔をする。
思わず1歩後ずさろうとするも、私の手首を掴んでいる手がそれを許してくれない。
「素直に頷く時点でなんかおかしい。てか、最近のお前は少し変」
「変って…」
「俺を見る目は、見惚れてるというより、助けを求めてるように見える時がある」
「……」
「何か気になることがあるなら言えよ。もしかしたら解決出来ることかもしれないし」
この男は私の変化に驚くほど敏感だ。こないだは、様子が変だと言った桜佑に胃痛のせいにして誤魔化したけど、きっともう同じ手は使えない。
だけど桜佑は、私の悩みの種が自分であることに気付いていない。婚約者というより、まるで上司のような表情で私を見ている。
「…実はずっと、気になってることがあって」
このモヤモヤが解決するかは分からない。けれどこれ以上隠し続けるのも無理な気がして、意を決して口を開いた。