甘い罠、秘密にキス




「もし一生のうちにピストルを3発だけ撃ってもいいって法律があったなら、私は間違いなく3発全部あの男に使ってる」

『えー勿体なくない?せめて2発でしょ。あとは護身用に取っておきなよ』

「何言ってんの。アイツはきっと3発撃たれても倒れないよ」

『だったら尚更でしょ。私だったら日向君に使わずに3発とも護身用、もしくは嫌いな上司に…って、私達いま何の話してんだっけ』

「アイツが私の目の前に現れて、大ピンチだって話」

『上司になったんだっけ?いいなー楽しそう』

「楽しむどころか毎日が地獄なんですけど」


あれから2週間。あの男に怯えながら仕事をする日々が続いている。

特に奴が何かを仕掛けてくることもなければ“オスゴリラ”呼びされることもないのだけれど。それでも私は、常に神経を研ぎ澄ませながら仕事をしているわけで。

ただでさえ忙しいというのに、アイツのせいで頭がパンク寸前。帰宅した時には既に疲れ果てていて、食事をする元気もなく即寝落ちしている。


奴が仕事の出来ない男ならまだ強気でいられたのに。この2週間、奴は大きなミスもなく、むしろ覚えも早く他の社員の特徴も把握していて、リーダーの仕事を完璧にこなしていた。

…田村リーダー、早く戻ってきてくれないかな。


『てかもう仕事に行かなきゃいけないんだけど、切っていい?』

「…また飲みに行こう。話聞いてよ、奢るから」

『やった。なんなら今晩空いてるよ』

「あー今日はダメだ。あの男の歓迎会がある。まぁ私は欠席でもいいんだけど」

『ばか、それはダメでしょ。もしかするとふたりの距離がぐっと縮まるチャンスかもしれないしね?』

「縁起でもないこと言わないで」

『ほんとつまんないなー。まぁまた連絡する。とりあえず切るね』

「うん、ありがとう」


通話が終了してすぐにスマホをベッドに放ってテレビをつけた。朝から愚痴を聞いてくれた香菜には感謝しかない。吐き出さなきゃメンタルが持たないもの。

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