甘い罠、秘密にキス

「川瀬さん、私つぎはピンクグレープフルーツサワーを頼もうかな」


このままイケメン街道を歩くわけにはいかないと、メニュー表を見ながらいつもは絶対に頼まないような可愛らしいドリンクを選んでみる。

今日のラッキーカラーである“ピンク”を摂取して、少しずつ生まれ変わってやるんだから。


「それ美味しそうですね。私も同じの頼んじゃおっかな」

「くぅ…川瀬さんほんと可愛い」


佐倉さんとお揃いだ。と、嬉しそうに笑う川瀬さんを見て思わず抱きしめそうになった。やっぱこの子には勝てない。

そんな私達のやり取りを見ていた煮区厚さんは「あなた達、傍から見たらカップルにしか見えないわよ」と微笑む。


「煮区厚さん、残念ながら川瀬さんにはイケメンの彼氏がいるんですよ」

「あら、そうだったわね」

「佐倉さんが彼氏になってくれるなら、私今の彼氏と別れちゃいますよ」

「もーーー可愛いなあ~こいつぅ~」


私の腕に絡みついてくる川瀬さんが可愛くて、彼氏気取りで彼女の髪を撫でた。やっぱりイケメンキャラを卒業するには、まだまだ時間がかかりそうだ。


こうしてこの後もずっと三人で会話を続けた。そのままあっという間に時間は過ぎ、桜佑と一度も言葉を交わすことなくお開きの時間になった。


何だかんだ楽しい時間を過ごし、“ピンク”も無事に取り入れたことで、この時の私は星座占いが最下位なことなんてすっかり忘れていた。このまま何事もなく家に帰れると思ってた。

それなのに──…



「伊織、ちょっと付き合って」

「……え?」

「飲み直すぞ、ふたり(・・・)で」


───どうしてこうなった…?

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