甘い罠、秘密にキス
「でも最近ひとりで悩んでるみたいなんすよねー。日向リーダーは何も聞いてないですか?」
「……全然」
何も聞いていないっていうのは、私に告白されていないってことが言いたいんだよね?
すみませんね臆病者で。ゆっくり会えないからっていうのはただの言い訳で、別に電話で伝えればいいだけの話だもんね。
「そういうば日向リーダーって彼女いますよね。その方は可愛い系っすか?」
自分のことで精一杯ですっかり忘れていたけど、そういえばそういう設定だったっけ。てことは私、もう失恋確定した女だと思われてるのか。恥ずかしい話だな。
まぁ、私達の関係を秘密にしろって言ったのは、他の誰でもなく私なんですけどね。自業自得か。
「俺の話はいいから、仕事戻るぞ」
「えー、今後の参考に教えてくださいよ。いま彼女募集中なんで」
「参考って…とりあえず守ってあげたくなるような女性らしい人と付き合えば間違いないんじゃないか?」
「やっぱそうなんすかねー。あー俺もモテたいなー」
守ってあげたくなるような、女性らしい人…それって私と真逆のタイプですね。
ああ、嫌だな。井上さんのお陰で少し復活していたのに、自信がどんどんなくなっていく。
今まで桜佑が私にくれた言葉は嘘じゃないと信じたい。この短期間で桜佑のいいところをいっぱい見てきたから。そんな桜佑を好きになったから。
そう思うのに、昔の桜佑が脳裏にちらつく。
怒りなのか悲しみなのか分からないけど、熱が冷めていくような感覚に襲われる。
「俺は先に仕事に戻るからな」
桜佑がこっちに来る。
そう分かっていても足が動かなかった。このまま顔を合わせても気まずいだけなのに、なぜか桜佑から逃げるという選択肢はなかった。
「──えっ、いお……」
伊織。そう言いかけて慌てて口を噤んだ桜佑。角を曲がった瞬間、ひとりで突っ立っている私を視界に入れた彼は、動揺を隠せないのか分かりやすく視線を泳がせた。