甘い罠、秘密にキス
「私の友達は結構地元に残ってるよ。結婚して、家を建てた子もいるし」
「だからお前も今の支社を希望したのか」
「私は友達がいるからっていうより親が心配だったからかな。せめてお父さんが戻ってくるまでは、私が近くにいなきゃお母さんも不安だろうし」
「おばさん、相変わらず?」
「うん、今も変わらず息子扱い」
「だろうな」
あれ、私いまあの桜佑と普通に会話してる。緊張で勝手に口が動いちゃうのかな。
桜佑はうちの家庭事情を知っているから話が通じるっていうのもあるけど。母が私を男の子として育てていたのを、桜佑は中学卒業までずっと近くで見ていたから。
でもなんか、調子狂う。
「わ、私を女として見てないのはあんたも一緒だけどね」
「身に覚えがねえな」
「はい?」
「まぁおばさんが元気そうで何よりだわ。俺もこっちにいる間におばさんとこ顔出しに行く予定ではあるけど」
「やめてよ。絶対私も呼び出されるじゃん」
別に来ればいいだろ。そう笑いながら横目でこっちを見るから、不意に視線が重なって心臓が跳ねた。
この状況、凄く落ち着かない。そもそも、二次会を断った桜佑が私とふたりきりでバーに来ているなんてことが他の社員にバレたら大問題だ。
一刻も早く終わらせて、さっさと帰ろう。