甘い罠、秘密にキス

恐らく日本全国どこを探しても、牛丼を食べながらこんな台詞をもらえる人はなかなかいないと思う。

そんなシチュエーションでも感動させられるのは、きっと相手が桜佑だから。

私の心を突き動かすのは、いつだってこの男だけ。


「…こちらこそ、結婚してください」


返事をする前に私からもプロポーズをすると、桜佑は「男前か」と吹き出すように笑った。


「もう二度と傷付けないって約束する。自分の両親みたいにはならないって誓う。誰よりも伊織の味方でいるし、絶対に離れない。何があっても守るから、俺の傍にいてほしい」

「うん…私も絶対離れない。愛で溢れる家族になろうね」


指輪が光る手に、桜佑の手が重なる。

反対の手は、私のピアスをそっと撫で、そのまま後頭部に回った。


「伊織、好きだ」

「私も。大好き」


お互い愛を囁くと、どちらからともなく唇が重なった。



もう二度と、この手を離さない。

例えこれが、彼の甘い罠だとしても。






fin.

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