甘い罠、秘密にキス
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時々夢を見る。幼少期の、孤独だった時の夢を。
孤独なんて慣れているはずなのに、そのやけにリアルな夢に、目を覚ますと全身に冷や汗をかいている。
そして今日もまた同じような夢を見てしまった。昼間に伊織の手作り弁当を食べて、幸せに浸ったばかりなのに。その幸せをかき消すかのように、夢で聞いた親父の怒鳴り声が耳に残って離れない。
ドクドクと鼓動がはやくなって、どうしようもなく不安に駆られて、慌てて隣に寝ている伊織の姿を探した。
「…伊織」
腕枕をして寝たはずなのに、俺の腕の上に伊織の頭が乗っていない。どうやら伊織は寝返りをうったらしく、俺に背を向けて寝ていた。その背中を見ると、伊織の熱が無性に恋しくなって、夜中だというのに名前を呼んでしまった。
「…ん」
無理やり伊織の首の下に腕を通せば、伊織が小さな声を零しながらもぞもぞと俺の腕の中におさまった。そのまま強く抱き締めると、伊織が「…お…すけ?」と俺の名前を呼んだ。
寝起きの意識がハッキリしていない状態で、俺の名前を呼んでくれたことが嬉しかった。それだけで、不安が消えていく気がした。
「ごめん、起こした」
「んーん」
寝ぼけているせいか、伊織は俺の背中に手を回し、額をスリスリと俺の胸に押し付けてくる。それがまた可愛くて、伊織の頭を優しく撫でた。
「…桜佑」
再び俺の名前を呼んだ伊織が、今度はトントンと俺の背中を叩き始めた。まるで、俺の心を落ち着かせるように。
「だいじょうぶ。私はここにいるよ」
「…え?」
「だいじょうぶだいじょうぶ…」
起きているのかいないのか、イマイチよく分からないけど、俺の心臓の音がいつもよりはやいことに気付いたのか、伊織は何度も「大丈夫」と囁き、背中をトントンと優しく叩き続ける。
その一定のリズムが心地良く、それに加え伊織の穏やかな声音が胸に響いて、思わず目頭が熱くなった。
「…伊織、愛してる」
額にキスを落としながら思わず囁くと、ふふっと笑い声を零した伊織。
初めて“愛してる”と言った俺に、伊織は「私も」と寝言のように呟いたかと思うと、そのまま深い眠りについたのか、俺の背中を叩いていた手を止め、スースーと寝息を立て始めた。
愛しい寝顔を見つめ、その額にキスを落とす。
気付いた時にはさっき見た夢のことなんて忘れていて、改めて伊織の存在の大きさを知った。
「…明日、ラーメンでも食いに行くか?」
気持ちよさそうに眠っている伊織に話しかけると、その口元が微かに笑った気がした。
お弁当のお礼に、明日は伊織の好きなラーメンでも食べに行こう。
「お礼なのにラーメン?」って言われるだろうか。
いや、伊織なら笑顔で大盛りのラーメンを頬張ってくれそうだ。
「…可愛いな」
明日の朝、もう一度“愛してる”って言ってみよう。
伊織、どんな反応すんのかな。
fin.
時々夢を見る。幼少期の、孤独だった時の夢を。
孤独なんて慣れているはずなのに、そのやけにリアルな夢に、目を覚ますと全身に冷や汗をかいている。
そして今日もまた同じような夢を見てしまった。昼間に伊織の手作り弁当を食べて、幸せに浸ったばかりなのに。その幸せをかき消すかのように、夢で聞いた親父の怒鳴り声が耳に残って離れない。
ドクドクと鼓動がはやくなって、どうしようもなく不安に駆られて、慌てて隣に寝ている伊織の姿を探した。
「…伊織」
腕枕をして寝たはずなのに、俺の腕の上に伊織の頭が乗っていない。どうやら伊織は寝返りをうったらしく、俺に背を向けて寝ていた。その背中を見ると、伊織の熱が無性に恋しくなって、夜中だというのに名前を呼んでしまった。
「…ん」
無理やり伊織の首の下に腕を通せば、伊織が小さな声を零しながらもぞもぞと俺の腕の中におさまった。そのまま強く抱き締めると、伊織が「…お…すけ?」と俺の名前を呼んだ。
寝起きの意識がハッキリしていない状態で、俺の名前を呼んでくれたことが嬉しかった。それだけで、不安が消えていく気がした。
「ごめん、起こした」
「んーん」
寝ぼけているせいか、伊織は俺の背中に手を回し、額をスリスリと俺の胸に押し付けてくる。それがまた可愛くて、伊織の頭を優しく撫でた。
「…桜佑」
再び俺の名前を呼んだ伊織が、今度はトントンと俺の背中を叩き始めた。まるで、俺の心を落ち着かせるように。
「だいじょうぶ。私はここにいるよ」
「…え?」
「だいじょうぶだいじょうぶ…」
起きているのかいないのか、イマイチよく分からないけど、俺の心臓の音がいつもよりはやいことに気付いたのか、伊織は何度も「大丈夫」と囁き、背中をトントンと優しく叩き続ける。
その一定のリズムが心地良く、それに加え伊織の穏やかな声音が胸に響いて、思わず目頭が熱くなった。
「…伊織、愛してる」
額にキスを落としながら思わず囁くと、ふふっと笑い声を零した伊織。
初めて“愛してる”と言った俺に、伊織は「私も」と寝言のように呟いたかと思うと、そのまま深い眠りについたのか、俺の背中を叩いていた手を止め、スースーと寝息を立て始めた。
愛しい寝顔を見つめ、その額にキスを落とす。
気付いた時にはさっき見た夢のことなんて忘れていて、改めて伊織の存在の大きさを知った。
「…明日、ラーメンでも食いに行くか?」
気持ちよさそうに眠っている伊織に話しかけると、その口元が微かに笑った気がした。
お弁当のお礼に、明日は伊織の好きなラーメンでも食べに行こう。
「お礼なのにラーメン?」って言われるだろうか。
いや、伊織なら笑顔で大盛りのラーメンを頬張ってくれそうだ。
「…可愛いな」
明日の朝、もう一度“愛してる”って言ってみよう。
伊織、どんな反応すんのかな。
fin.


