甘い罠、秘密にキス

「そんなに女として見られたいなら女らしくすればいい話だろ」

「どの口が言ってんの」


予想外にも、桜佑はバカにしてくることはなかったけれど。冷静に指摘してくる男に違和感を覚えつつ「あんたのせいでもあるんだよ?」と心の中で反論する。


「もう手遅れでしょ」

「お前がそう決めつけてるだけだろ。まぁ俺にとっては好都合だったわけだけど」

「…さっきから言ってることの意味が分からないんだけど」


お酒を飲んだせいか、度々理解が追いつかない。難しい暗号を解いているかのように、頭にハテナが浮かぶ。

まぁでも、要するに全部自分次第だってことが言いたいのだろう。


「…自分を変えるのって、そんな簡単なことじゃないよ。周りが受け入れるのにも時間がかかるし」

「案外そうでもないかもよ」

「…だからあんたは何が言いたいの」


カラン、とグラスの氷が鳴ったと同時、桜佑の切れ長の目が私を捉えた。

なぜだろう。視線を逸らせない。


「お前、好きなやついる?」

「はい?」


唐突な質問に、目が点になる。まさか桜佑と恋バナをする日が来るなんて思わなかったから。


「いや、いないけど」

「今までにいたことは?」

「…ない、のかな。いやどうだろ」


どっちだよ、と心の中で自分にツッコミを入れつつ、2年前に付き合っていた彼を思い出す。


「一瞬だけ付き合ってた人がいるけど」

「一瞬…」

「でも何も無かったに等しいようなお付き合いだったし」


いやだから、なぜこの男に私の過去を話さなきゃいけないのか。そう思うのに、桜佑の表情がいつになく真剣で、誤魔化すことも話を逸らすことも出来なかった。

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