甘い罠、秘密にキス


そもそも“大事にするタイプだと思う(・・)”ってなに。なんでそんなに曖昧なの。

自分では大事にしてるつもりってこと?それなら納得出来るけど、思えば桜佑が女子と仲良くしているところを見たことがない。てことは、私のことをからかって適当なこと言っているだけなのかも。


「…絶対嘘だ。桜佑が優しかったことなんてないし」

「そんなことないだろ」

「確かに女子社員からは人気があるし、モテる方なのかもしれないけど」

「まぁそれは否定しねえな」

「……」


私の記憶の中の桜佑は中学時代でストップしてるから、もしかしたら本当に紳士で優しい男に成長したのかもしれないけど、先日の“オスゴリラ”発言といい、やっぱりさっきの言葉は信憑性に欠ける。

でもまぁモテるのは本当なのだろう。見た目だけじゃなく仕事も出来る男だから。


「…いいよね、モテる人は」


この男に悩みなんてあるのかな。昔から何でもそつなくこなす人だったから。

スポーツも出来て、頭も良い。リーダーシップを取るのもうまくて、どこか自分を持ってる人。

欠点があるとすれば、強引で意地が悪いところくらい。でもそれは私に対してだけ。周りから見た桜佑は完璧に近いと思う。


それに比べ私は、親の影響を受け、周りに流され。“自分”がよく分からないまま大人になってしまった。


「私なんて一生誰からも女に見られないまま、ひとりで歳を取っていくんだろうな」


自嘲気味に笑いながらお酒を口に運ぶ。

こんな私でも、一度は希望を持ったことがあった。あの時(・・・)は本気で女性らしくなれる気がした。

まぁそれもすぐに、儚く消えてしまったけど。


「ごめん、今の忘れて」


やってしまった。隣にいるのはあの桜佑なのに、つい変なことを口走ってしまった。

桜佑のことだ。「当たり前だろ」とか言って、鼻で笑うに違いない。


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