甘い罠、秘密にキス

「ねぇ、大事な話っていうのはもう終わったの?そろそろ戻りたいんだけど」


反撃方法が分からず、今の私は話を逸らすので精一杯。急いで立ち上がろうとすれば、触れられていた手にきゅっと力を込められる。


「週末だし、今日もうち来る?」

「行くわけないでしょ」


勘弁して欲しい。昨日から色々ありすぎて疲労がピークだ。休みの日くらい、ひとりでゆっくり現実逃避させてほしい。


「さっき渡したスケジュールにも書いてあるけど、来週出張があるから出来れば一緒にいたいんだけど」

「無理だって。社宅っていうのも嫌だし」

「だったらふたりで部屋借りる?」

「バカ」


話が飛躍し過ぎてて、いちいちツッコミを入れるのも面倒だわ。

呆れた顔をする私を見て、桜佑は悪戯っぽく笑う。何が本気で何が冗談なのか、イマイチ掴めないから余計に疲れる。


「俺そろそろ行かねえと」


腕時計を確認した桜佑が、ゆっくりと椅子から立ち上がる。その様子を見ながら、やっと解放される、とほっと胸を撫で下ろした。


「あ、そうだ伊織」


会議室から出ようとした桜佑が、ドアノブに手をかける寸前で何かを思い出したように振り返った。「なに」と小首を傾げる私に、桜佑は静かに口を開く。


「ゼクシィ買っとくわ」

「女子か」


やっぱりどうにかして婚約解消出来ないかな。

< 53 / 309 >

この作品をシェア

pagetop