甘い罠、秘密にキス

04.お揃いにキス




「佐倉さんおはよう」

「おはようございます煮区厚さん」

「今日も相変わらずイケメンね。眼福眼福」


いつもと変わらない朝。だけど、私の心はそわそわしていた。

それはなぜかと言うと、胸ポケットに入れているあれ(・・)が、いつもと違うから。


「(ボールペン、どのタイミングで使おう)」


昨晩、桜佑からもらったスワロフスキーのボールペン。勇気を出して持って来たのはいいけれど、なにこれめちゃくちゃ緊張する。

周りの社員も、いちいち人のボールペンなんて気にしないだろうけど、もし誰かに突っ込まれた時どう反応すればいいのだろう。

ていうかこのボールペンって本当に私だけにくれたのかな。実はこれから他の社員にも同じ物を配るとかじゃないよね?

みんなでお揃いなら、それはそれで私も使いやすいけれど。私のために選んでくれたと思い込んでいたから、なんか複雑。


「あ、日向リーダーだわ。久しぶりに見るけど、彼もやっぱりイケメンね」


煮区厚さんの声に、ハッと我に返る。オフィスの入口に視線を向けると、そこには大きな紙袋を提げた桜佑の姿があった。

大きな紙袋…きっとあの中に出張先のお土産が入ってる。


ドキドキしながら無意識に桜佑を目で追ってしまう。桜佑はそんな私の視線に気付くことなく、そのまま伊丹マネージャーのところへ向かった。


「おー日向おかえりー。もしかしてこれ土産?なんか美味そうなお菓子だな」

「いまSNSでバズってると噂のお菓子にしてみました。皆さんでどうぞ」

「さすが男前は選ぶものが違うなー。ありがとな」


ふたりの会話に聞き耳を立て、その内容に思わずほっと胸を撫で下ろす。

どうやらあの紙袋の中にはお菓子が入っているらしい。ということは、このボールペンはやっぱり私にだけということ。

……どうしよう、余計にドキドキしてきた。
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