甘い罠、秘密にキス

「佐倉さんっ」

「わっ、川瀬さん」


突然後ろから声を掛けられ、大きく肩が揺れた。弾かれたように振り返ると、女の私でも惚れそうなほど可愛い笑顔を振りまく川瀬さんと視線が重なる。


「佐倉さん、今週の金曜日の夜は何か予定がありますか?」

「金曜日ってことは、明後日?何もなかったと思うけどちょっと待ってね。いまスケジュール確認するから」


バッグからスケジュール帳を取り出し、会食などが入っていないか念の為確認する。


「うん、何もないよ」

「実はE社の社長に食事に誘われたんですけど、是非佐倉さんもご一緒にとのことなので、もしよければ…」

「ほんと?じゃあお言葉に甘えてお邪魔しちゃおっかな」

「ありがとうございます。では社長に伝えておきますね」


E社というのは、以前私が担当していた女性社長の会社。数ヶ月前に川瀬さんに引き継いだのだけど、社長はとても面倒見のいい方で、未だに私のことも気にかけてくれる優しい人。


「私も予定入れておくね」


川瀬さんにそう言ったあと、胸ポケットからボールペンを取り出そうとして、一瞬動きを止めた。

桜佑から貰ったボールペン…使うなら今?


「あ、佐倉さんそれ新しいボールペンですか?すごく可愛いですね」


いや、反応早すぎでしょ。
私が恐る恐るボールペンを取り出した直後に声をかけてきた川瀬さん。まさかこんなにも早く見つかると思ってなくて「え、あ、」と思わず動揺してしまう。


「よく見たら名前も入ってる。プレゼントですか?」


考える余裕も与えられないまま屈託のない笑みで尋ねられ、勢いでこくんと頷いてしまった。


「素敵なプレゼントですね。センスがいい」

「そ、そうかな」

「はい。佐倉さんっぽくて良いと思います」


川瀬さんの優しさに、胸がきゅっと熱くなる。

女子力の塊である川瀬さんが肯定してくれた。それが無性に嬉しかった。
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