結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「良いところ……」

 じっと悩ましげに自分を見つめたまま固まるベルに、

「待って、そんな悩むレベル?」

 俺そんなに良いとこない? とルキは凹む。

「そうじゃ……なくて」

 一旦言葉を切ったベルは、濃紺の瞳を見ながら、

「仕事への情熱と努力を惜しまないところ。相手に寄り添おうとするところ。自分の悪かったところを振り返れるところ。ちゃんと謝れるところ。シル様に優しいところ。苦手なことに立ち向かおうとするところ。ごめんなさい、3つに絞れなかった」

 ベルは指を折りながらルキの良いところを挙げていく。

「……ベル、やばいコレ。めちゃくちゃ恥ずかしい」

 ベルに直球でそう言われ、ルキは両手で顔を覆う。

「その恥ずかしいことをするのが恋愛というやつらしいです」

 まぁでもやってみない事には、結果は出てこないですからとベルはやってみる方向で話を進める。

「世の中のカップル大変だな」

「毎日大事故ですね」

 お互い感想を言った後、

「無理のない範囲で恋人の真似事やる事リストを作りつつ、消化してみましょうか?」

 ベルは笑いながらそう言った。

「じゃあ早速一個追加で。名前で呼んで敬語もなしにするのはどう? せめて2人でいる時だけでも」

「名前は呼んでいますが?」

「そうじゃなくて、対等な相手って呼び捨てにするだろ?」

「家族や恋人でも"さん"や"ちゃん"など敬称を付けることはままありますが、まぁお望みなら」

 ベルは律儀にリストに付け加えて、

「じゃあこれから2人の時はルキって呼び捨てにするね」

 と了承する。

「……本当に、毎日大事故だ」
 
 ベルに親しげに呼ばれたのが嬉しくて、心音が早くなる。
 机に伏して顔を隠したルキを見て、

「えーっと、名前呼びやめとく?」

 と尋ねるベルに、

「すぐ慣れるから大丈夫」

 ルキは継続の方向で、とベルに頼んだ。
 ただ呼び捨てにされただけなのに、ベルとの距離が近くなった気がするから不思議だと思いながら、ルキはベルの事をじっと見る。

「……どうしたの? ルキ」

「うん、なんかちょっと嬉しくて」

 そう言って嬉しそうに笑うルキの顔を見て、ベルは小さく笑い返す。
 そんなベルを見ながらルキは思う。
 ベルなら平気だからなんて消極的な理由じゃなくて、ベルだからいいと言えるような自分になりたいと。
 はっきりと『愛してる』が分かったら、その先に、自分は何を思うのだろう。
 ルキはそんな事を考えながら、今自分の中にある感情と向き合ってみたいと確かにそう思った。
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