結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「今回の来訪、非公式だけど実質うちの王弟殿下とあちらの王女殿下のお見合いだろ。王弟殿下のアシストとして指名受けた。その後の外交の場にも同席する」

「……マジで?」

 あちらには未婚の王女様が2人いる。その両方が来訪される予定で、両国ともあわよくば縁組できればという思惑があるのは知っていたが、そこにルキが同席すると言うことを初めて知りレインは驚く。

「王弟殿下直々のご指名とあとは他の公爵家や上流階級のお偉いさん達から推薦されたから」

 勿論お見合い中は他のご令嬢達とも一緒にお相手するんだけど、とルキは淡々と説明する。

「すごいな、外交の同席頼まれるの」

 今一番友好を深めたい国との仲を上手く取り持つことができれば、その功績はかなり評価される。そして、間違いなくブルーノ公爵家の後継者としてルキが認められる事になるだろう。

「ベルのおかげ。夜会で風除けしてくれたおかげで時間を有効に使えたし、仕事に集中できたから話したかった上層部の人と随分親しくなれたし」

「それを差し引いても、ルキの努力が評価されたって事だろ」

「おかげで目標達成できそうだよ」

 結婚せずに公爵家の後継者として認められること。それはルキの目標でもあった。

「まぁ、でも最近ルキ女性あしらい上手くなったよな。女性の扱いも」

 以前は寄ってくる令嬢をただ冷たく突き放すような対応をしていたルキが、ベルと婚約して以降随分変わったとレインは思う。
 穏やかに笑う事が多くなったし、本来の優しい彼らしく自然と女性を気遣いながらも、はっきり自分の意思を伝え、角を立てずに断れるようになった。

「まぁ、それもベルのおかげかな」

 そう言って笑ったルキは、手元の資料に視線を落として、

「あ、この服ベル好みだな。染め物系の生地かぁ。今回の話がまとまってナジェリーと気軽に行き来できるようになったら、旅券手配しようかな」

 現地連れて行った方が喜びそうだけど、ベルは旅費払わせてくれないだろうなぁなどというルキに、

「……ルキ、本当に婚約破棄する気ある?」

 とレインは呆れた口調で尋ねる。

「……一応?」

 レインの問いかけにそう言ったルキは、時計を見ると立ち上がり、

「俺、外回りの用事済ませてそのまま直帰するから」

 と誤魔化すようにそう言って出て行った。

「あれ、婚約破棄する気ないだろ。絶対」

 ルキの背中を見送って、レインはぽつりとそうつぶやく。
 今回の外交で上手くナジェリー国と関係を築けたとしても一般人が気軽に行き来できるようになるのはまだ何年かかかる。
 その上『ベルは"まだ"公爵家の人間じゃない』と言った。

「"まだ"なんて言葉は、"これから先"を考えてないと出て来ないんだって、分かってんのかねぇ、あいつ」

 レインはクスッと笑いながら、良い方に転がればいいけどとつぶやいた。
< 103 / 195 >

この作品をシェア

pagetop