結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
 深夜過ぎに久しぶりに帰った公爵邸に足を踏み入れたルキはいつもならとうに寝ているはずのベルと階段下でバッタリ遭遇した。

「おかえりなさい」

 片手にコーヒーを持っているベルはやや眠そうな声でお疲れ様とそう言った。

「どうしたの、ベル。こんな時間に」

「んーシル様のファッションショーもとい登城準備を手伝ってたら、楽しくって。うっかり時間が押しすぎちゃったから、まだ自分のやる事終わってないんだ」

 コーヒー飲んでもう少しがんばるのとベルは言う。

「そんなに無理して付き合わなくても良かったのに」

 眠そうなベルを見ながらそう言ったルキに首を振ったベルは、

「付き合うよ。ルキによろしくされちゃったし、それにシル様にとって久しぶりの登城なんでしょ?」

 12歳で臣下としての務めを果たすために登城し、他国の王族の相手をするシルヴィアは本当にすごいとベルは思う。

「ルキはシル様のために帰って来たの?」

「都合つけられたから明日はシルと一緒に行こうかと。実質、シルの保護者は俺だし」

 明日はナジェリー王国の王女達と我が国の王女、公爵令嬢、侯爵令嬢による親交を深めるためのお茶会が催される予定だ。それにシルヴィアは参加予定で本日1日がかりで準備をした。

「上流階級の貴族大変ね。……シル様、少し緊張してらしたから、明日は声かけしてあげてね」

「うん、そうする。シルの事見ていてくれてありがとう。本来なら女主人というか母親がするものなんだけど、うちは両方いないから」

 困ったように苦笑したルキに、

「まぁ私はどっちの代わりもできないんだけど、ここにいる間は頼ってよ。それにシル様着飾るとかご褒美でしかない」

 めちゃくちゃ楽しかったと満足気に話すベルを見て、

「本当に、感謝してる。ありがとう」

 とルキが優しい口調で礼を述べたところで、小さくぐぅーと鳴る音がした。

「…………ルキ、ごはん食べてる?」

 ばっと顔を背けたルキに、

「お腹が鳴るのは正常な反応よ。そんなに乙女のように恥じらわなくても」

 クスクスと笑ったベルは、

「軽く食べられるもの用意してあげるから着替えておいで」

 と優しく言った。
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