結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「もちろん覚えている。ほとんどの回答は自身の非を認めて詫びていたな」

 それは様々な相手に"交渉"を行うことを生業とする外交省で、相手からの指摘によりピンチに陥ったときの反応を見るためのものだった。

「ああ、でも1人だけ面白い返しをした奴がいたっけ?」

『じゃあ、実際にやってみましょう!』

 そんな書き出しから始まったその回答は、そこから"盾"と"矛"という2つの商品を売り込むための話題づくりを行う計画とそのために何をするかといったことをまとめたプレゼンだった。

『私なら、どんな商品でも売ってみせる』

 そんな強気な態度が見てとれたが、ピンチもチャンスに変えてやると諦めない姿勢に好感が持てた。

「それ書いたのが、ベル・ストラル伯爵令嬢だよ。そのあとの模擬プレゼンも見事なものだった。もちろん、筆記試験も難なく突破。結果だけ見れば総合1位だったよ」

 そう言ったレインの言葉にルキの目は驚きの色に染まる。

『あのまま就職してたら今頃次期公爵様の部下だったかも、しれませんね』

 アレは、冗談じゃなかったのか。

「……なんで、ベルは一旦不合格になったんだ?」

 そして、ルキの疑問はそこに行き着く。

「通知出す前に結果を知った某侯爵家から苦情が入ったんだよ。あんなスキャンダルまみれの伯爵家の人間、しかも先代伯爵の庶子なんて外交省に相応しくないって」

「なっ、そんなバカな」

「息子の出来が悪すぎて不合格だったからな。腹いせだろ」

「それ、まかり通ったのか? 外交省(うち)で?」

 外交省は勤めているだけで、注目を浴びる。そのため毎年金を積んだり、コネで入れさせようとする輩がいるのは知っている。
 だが、それらの不正は決して許していないはずだ。

「まぁ、外部特に諸外国の要人と接する事もあるからな。家柄重視って意見も確かにあるしな」

 不正で入れる事はない。
 だが、不当に落とす事はある。過去にも確かにそんな例があった。

「けど、最終的に陛下が採用試験の結果を見て、不合格をひっくり返したんだ。優秀な人間を取り立てない試験なんてやめてしまえってな」

「今の陛下は、公明正大だからな」

 代替わりした今の国王は、積極的に実力主義を取っている。

「けど、たかが伯爵令嬢ひとりのために、陛下が動いたのか?」

「そこはまぁ謎なんだよねぇ。まぁ、侯爵家が問題有り過ぎて潰す機会狙ってたんじゃないか、っていうのが定説」

 まぁ確かにと、ルキは納得する。
 現国王のおかげで先代国王時代漫然と蔓延っていた貴族の皮を被った害獣が随分と整理され、不正摘発に伴い家紋の顔もここ数年でかなり代替わりを遂げている。
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