結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「責任の一端はウチにもあります。なので、私の時間を一年、次期公爵様に差し上げます。それだけあれば、あなたなら継承条件を整えられるでしょう。ついでに他の厄介ごとも払ってあげます」

 ベルは少しだけ申し訳なさそうにそう口にして、紅茶を全て飲み干したあと、書類を2枚差し出す。
 1枚は婚約申請書。もう1枚は婚約破棄申請書。どちらもベルの書くべき欄は記載済みだ。

「……こんな事をして、君に一体なんのメリットが?」

 この子は本気で婚約し、そして破棄しようとしていると悟った次期公爵は信じられないものでも見るようにベルを見る。

「貴族令嬢にとって婚約破棄は醜聞でしかない。私と婚約破棄したら、君はコレから先傷物令嬢なんて呼ばれる羽目になるんだぞ?」

 ましてや公爵家と破談などこれから先、まともな縁談が望めなくなる。
 正気か? とサファイアのような濃紺の綺麗な瞳が問いかけてくる。
 そんな彼にベルは肩を竦め、

「あのぉー次期公爵様? そもそも論なんですけど、何で結婚が女性の幸せだなんて決めつけてるんです?」

 アクアマリンのような瞳をきょとんとさせて問いを問いで返した。
 そんなベルに視線で疑問符を送る次期公爵に、

「私、結婚するより、自力で稼ぎたいんです!」

 とベルはぐっと拳を握りしめ、

「公爵家と破談なんて、コイツヤベェ。お察しってなって結婚から縁遠くなるでしょうね、でもその分全力で仕事に取り組める。控えめに言って最の高ですねー」

 全力でそう主張した。
 とても嘘を言っているようには見えないが、それは貴族令嬢としていかがなものかと次期公爵は思わずにはいられない。
 そんな次期公爵に構うことなくベルは話を続ける。

「別にこれは次期公爵様だけにメリットのある慈善事業ではないのです。私も個人的にビジネスチャンスかなって思っているので」

 どうせ避けられないなら、転がってるチャンスは積極的に活用していくスタンスなんで、とアクアマリンの瞳は楽しそうに語る。

「私、お洋服が大好きでして。お店を持つのが夢なんです」

 資金は貯めてるんですけど、なかなか事業展開のオッケーがもらえなくてとベルは憂い顔でため息をつく。

「兄から了承をもぎ取るにはとりあえず何を置いてもまず実績。私は上流階級のお嬢様方との繋がりが欲しいのです。そしてクローゼットに眠っているであろう大量の衣服を買い付けたい!」

 そしてリメイクして裕福層向けに貸衣装及び中古販売します。
 と今後のビジネス計画をざっくり次期公爵に話したベルは、上流階級のクローゼットご開帳についての熱意を熱く語る。
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