結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「それで、ルキ様のご用事は?」

 ベルに促されて思い出したように綺麗にラッピングされた箱を取り出したルキは、

「ああ、これを渡しに」

 とベルに差し出す。了承をとって開けたベルは、

「わぁ、コレこの間のパーティーで食べたチョコレート」

 嬉しそうに感嘆の声をあげた。

「気に入ってたろ? こっちの方が俺は好みなんだ」

 パーティーでは随分世話になったからと感謝の気持ちを込めて、ルキは微笑む。

「いいんですか!? もらっても」

「どうぞ」

「ちょうど甘いもの欲しかったのです。早速一個頂いちゃお」

 チョコレート大好きなんですよ! と嬉しそうにチョコレートを食べたベルはすぐさま口を押さえる。

「これ……」

「ああ、アルコール入りだが」

 ベルは聞き終わる前にぐらっと体勢を崩し、ソファーに身を沈めてダウンする。

「ベル? ベル!!」

 いきなりの出来事に焦ったルキは、すぐさまベルの側に駆け寄る。

「ごめん、なさ……私、アルコール……全然、ダメ……で」

 きゅーっと目を回したベルはそのまま起き上がれなくなり、目を閉じる。コンペの準備で連日遅くまで仕事をしていた疲れもあってアルコールのまわりが早い。

「ベル……とりあえず、水を」

 確かに度数高めだが、そんなチョコレート1個で!? と焦るルキは、ベルの冷蔵庫を勝手にあけてミネラルウォーターを取り出し、コップに注いでベルに渡す。

「ベル、飲めるか? 悪かった。知らなくて」

「……ん」

 焦点が定かでないトロンとした目をしたベルは、ルキに支えられて水を飲み、

「…………ありがとう、ハル」

 と無防備に笑ったあと両手を伸ばし、ぎゅっと抱きついてくる。

「ハル、会いたかったぁ」

 ふふっと嬉しそうに笑って耳元でそう言ったベルは、

「無理しちゃ、嫌よ? あなたは、私の……」

 そこまでつぶやいて、そのまま寝落ちした。
 突然の出来事に声を出す事もできなかったルキは、頬が紅くなったベルがスースーと規則正しい寝息を立てるのを見ながらほっとすると同時に、

「誰だよ、ハルって」

 ルキのつぶやきは寝ているベルには届かない。
 翌朝何も覚えていないベルに平謝りしたルキがベルの口から愛おしそうに呼ばれたハルという名に、なぜこんなにも心がざわつき、イライラするのか、その気持ちの名前を知るのはもう少し先のお話。
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