結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
 ホールの中央に立ったベルはいつもよりだいぶ地味なスーツ姿でマイクに向かって、

「はじめましてとこんにちは! ベル・ストラルと申します。これから自分の道を歩みはじめる紳士淑女の皆さまへ、本日は私の好きなシンデレラのお話しを持ってきました」

 鈴を転がしたようなよく通る声でそう語りはじめた。

「みんな知っていると思うけど、シンデレラ、とはただのラッキーガールじゃないわ!」

 ベルの声に合わせて、映し出された映像
には、シンデレラの絵と"なぜ彼女は成功できたのか? その一考"と書かれていた。

「どんな困難やピンチも自分のモノにできる強かさ、あれほど冷遇されていたにも関わらず、美貌を保つために指先まで気を抜かない"可愛い"を追求できる努力の姿勢、ダンス1曲で周りの注目を集められる技術、またその短い逢瀬で王子様を射止められる話術と教養」

 それを続ける事は、並大抵の決意ではできなかったことでしょう、そう語るベルは、

「そう、ガラスの靴は偶然脱げたわけじゃない。次に繋げるための駆け引きとして、自分で置いてきたのよ!」

 自らの靴を脱ぎ捨てて、まとめあげた髪を解く。
 パチンとベルが指を鳴らすと魔法にかけられたように、一瞬で地味なスーツが淑女らしい装いに変わった。
 彼女の変身に会場中の注目が集まる。

「"魅せたい自分"は自らの手でしか作れない! ところで、あなた達は自分の目標を達成するために、今、どれだけ準備ができている?」

 私はまだまだ夢の途中なのと、キラキラした目で言葉を紡ぐベルは、

「チャンスはいつ降ってくるかわからない。だから、いつでも備えておきなさい。と、言う事を私はこの学校のとあるプレゼンの授業で学びました」

 そのセリフにルキは目を見開く。それは数年前に頼まれてやった特別授業でルキが締めくくった言葉だ。
 当時のベルのことなんてルキは全く覚えていなかったが、それでもまともに聞いてくれた人がいて、それが今でも残っているというのは感慨深いものがあった。

「みなさんにもぜひ、積極的にチャンスを掴みに行ける力をつけて欲しい。そんなガラスの靴が欲しい、やる気のある人は、是非我がストラル社へ。ガツガツ鍛えて稼がせてあげるわ」

 ご清聴ありがとうございました。
 そう締めくくったベルを見ながら、ああ本当に彼女らしいと微笑んだルキは静かに会場を後にした。
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