結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「って、わけで弟だった」

 しかもすごく常識人の好青年だった。
 と事の顛末をレインに報告したルキを見ながら、

「良かったな、誤解とけて」

 と、レインは苦笑しながら聞いていた。

「それにしても、やきもちも大概にしとけよ」

 レインはことのついでのようにルキにそう忠告する。

「はぁ? やきもちって誰が」

「いやいや、誰がって、お前だろ」

 何言ってるんだコイツくらいの勢いでレインはそうツッコむが、

「何言ってるんだ。仮にも正式に婚約の届け出そうかって相手に、他に男がいたらマズイって考えるのは普通のことだろ?」

 ルキの言動から本当に無自覚らしいと悟る。

「じゃあ、聞くけど。ルキ、お前今まで一度でもそんなの気にした事ある? 相手の素行が気になって、もやもやしたり悩んだり」

「…………基本的に、擦り寄ってこられることはあっても、離れていかれた事がない。むしろ付き纏われるのを剥がすのに辟易する」

「うん、嫌味でしかないけど、ルキの場合何故か全く羨ましくない」

 ストーカーされたり、いきなり修羅場と化したり、媚薬や睡眠薬飲まされたり、連れ込まれそうになったりしている女性関係トラブルだらけの友人の過去を思い起こして、苦笑した。

「まぁ、じゃあ想像してみ? 今回弟だったけど、お前以外の男のとこに行くベル嬢のこと」

 レインにそう言われ、ルキは想像する。
 ベルがあんな風に嬉しそうに抱きつく相手が、家族以外であったなら?

「それを世間ではやきもちと呼ぶ」

 ぞっとするくらい綺麗で冷たく、怒りに満ちた濃紺の瞳を見ながら、レインは静かにそう言った。

「やきもちって、それじゃあまるで」

「まぁ、そこから先は自分で考えろ。相手と向き合いながらな」

 その先を否定するように首を振ったルキを見ながら、レインはそう助言する。
 ルキの抱えるトラウマの根は深い。
 考えるように黙り込んだルキを見ながら、見ないフリを続けるルキが自身の気持ちの変化を自覚することで、できる事なら少しでもそれが改善されればいいなとレインは願わずにはいられなかった。
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